著者:長池涼太:HSPの学び舎運営・HSP研究/エビデンスを発信するブロガー
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2020年以降専門家からは『HSPブーム』と呼ばれるくらいHSPが広まり、多くの人に知れ渡りました。
HSPが広まったことは喜ばしい一方でHSPが歪んで伝わり間違った、質の悪い情報もかなり増えてしまいました。これからHSPの研究が進んで正しいHSPの情報がより表に出ればと思います。
今回の記事ではHSPをテーマに卒業論文を書いた知人の大学生のよしこさん(仮名)にインタビューをしました。
- 現在大学生でこれからHSPを卒論で扱いたい、研究したい
- HSPの卒論の流れを知りたい
- 心理学とはまた違ったHSPに対するアプローチを知りたい
という方はぜひご参考にしてください。
今回の記事を動画でも解説しています
今回の記事の内容やHSPの卒論に関しては下記のYouTube動画でも解説しています。
- 卒論で大変だったこと
- HSP本の選び方
- オススメのHSP本
- ネット上のHSP情報の見極め方
- オススメのHSP情報サイト
などについて解説しました。
よしこさんの紹介
茨城大学人文社会科学部現代社会学科の国際・地域共創メジャー。ゼミでは社会行動論を専攻し、社会や人との関わりや人々が社会とどういう関係を作るかを探求するゼミに所属しています。春からは一般企業に就職予定。
よしこさんは僕が主催しているHSP勉強会にもご参加いただいてます。
卒論を始めるくらいの時期からHSP勉強会に参加していただいて、僕が共有したHSPの研究知見もお役に立てたと思います。
HSPを卒論テーマにしたキッカケ
HSPを知ったきっかけは2020年4月に『世界一受けたい授業』でした。
この番組が放送される前に母親から「テレビの内容があなたに似てる」と勧められて観てみたら自分の性格(気にしやすい、傷つきやすいなど)に似てると思いました。母親が勧めてくれなかったら、HSPを知ることもなかったかもしれません。
卒論は最初は別の予定で地域、施設に入るフィールドワークが主流だったのでそちらの形式でやる予定でした。ただ、コロナウイルスが流行ったことでフィールドワークを実施するのが厳しいと判断しました。でも、ちょうどHSPを知って面白そうと思ったので、HSPを卒論で使おうと決めました。また自分の性質、自分とは何かを明らかにしてみたい気持ちもあってHSPを卒論にしようと思いました。
世界一受けたい授業の拡散力は本当にすごいですね。
世界一受けたい授業でHSPを知った人はかなり多い印象です。
具体的にどんな研究をした?
主にインタビューをしました。
- インタビューした方の感情や行動がHSPを知ったことによってどう変わったか?
- HSPを知る前と知った後での自己認識がどう変わったか?
- HSPに対する向き合い方
をインタビューを通じて明らかにする研究をしました。
今まで僕が発信したHSPや多くの研究者のHSP情報は主に『心理学』の観点からでしたが、よしこさんは『社会学』の観点からの研究ですね。
ちなみにインタビューは僕も受けました。
HSPを卒論のテーマに決めたときの教授やゼミ内の反応は?
同じセミ内の学生はHSPを既に知っている人が若干名いて、ネット上のHSP診断テストを受けて「私もHSPかも」という人もいました。なので、「一部の人はHSPを知ってるんだな」と思いました。全体的にも興味を示したり、面白そうと言ってくれた人もいたのでやりやすかったです。教授は元々HSPを知らず「本当にHSPってあるの?」と最初は言われてしまいました。
そこで対話的自己エスノグラフィーという手法を使って、インタビューと同じ質問を教授から私にしてもらい対話を重ねることでHSPに対して理解してもらうことができました。
自分自身の語りをデータにすること。
自分の他にもう一人質問してくれる人が必要で、卒論ではゼミの教授にインタビューと同じ質問をしてもらい私が答えて出した文言を卒論に書きました。自分語りを卒論に落とし込むことですね。対話的自己エスノグラフィの手法は、心理学の中の『質的心理学』の研究者の方が編み出した方法だそうです。
個人的にはゼミの教授の研究に沿ったものを卒論にするイメージでした。場合によっては、よしこさんのように教授がノータッチのテーマでも卒論のテーマにしてもOKのようです。
HSPを知っている研究者・教授もまだかなり少ないので、卒論でHSPを扱う場合は教授とよく相談するのが必須ですね。
卒論を作るうえで大変だったこと
自分の特性や性格を深く掘り下げるので、自分の弱みを見つけていくように感じもあったので途中精神面で辛く感じることはありました。研究の面で言うとHSPの研究もそこまで確立されたものではないためどう落とし込めばいいか、どこに着地すればいいかがかなり迷いました。
また引用文献などを探すときも、HSPに関する学術書は少ないので論文をひたすら探しました。
りょうたさんに教えてもらった研究者をもとに、気になった研究者の論文を芋づる式に探していった感じでした。そのなかで『Japan Sensitivity Research』はかなり重宝しました。
現状どうしてもHSPに関する学術書など一般に出回っているちゃんとした情報は少ないですから情報収集はどうしても苦労しますよね。そのうえで精神的にしんどくなるのは卒論ならではですね…。
英語は翻訳アプリ(DeepL)があって、日本語を入れて英訳してました。私も英語は得意ではなかったので翻訳アプリ頼りでした。教授からも翻訳アプリを使っちゃダメとかはありませんでした。
僕が卒業研究を進めていた2010年当時は翻訳アプリはなく、通常の紙の辞書や電子辞書で地味に訳すしかありませんでした。DeepLは研究者でも使っている人は多いです。
卒論で参考にした情報
Japan Sensitivity Researchは特に参考にしました。HSPに関する論文はだいたい載っているので、まずは Japan Sensitivity Research から論文を探しました。探していく中で気になる研究者も出てきたので、1人の作者に注目して『○○ 論文』とGoogle検索をして論文を探しました。
新聞記事もテレビやSNSより説得力があり社会的に知られている情報が提示できると考え、導入のところで使わせていただきました。
社会学的な学部、アプローチだったのでHSPの背景を説明する意味では新聞記事も役に立ったようです。
書籍は卒論に載せられるようなものがほとんどなかったので、参考文献はほとんどネット上の論文でした。書籍は引用文献などに使っていませんが、HSPに関する予備知識をつけるためにアーロン博士の本を読んだりしました。特に『ひといちばい敏感なあなたが人を愛するとき―HSP気質と恋愛』は参考程度には読んでいました。
HSPの研究を取り上げた書籍(学術書)もありますが、書店で売られてるのはほとんど見たことないですね。
関西大学教授の串崎先生が書いた『繊細な心の科学』などがありますが、今のところはカウンセラーなどが書いたエビデンスに乏しい本が圧倒的に多いです…。
よしこさんが考えるHSPとは?
『自分を理解するためのキーワード』だと思っています。HSPというと『繊細』や『敏感』という言葉が知れ渡っていますけど、私はそれがすべてではないと思っていて、繊細・敏感な部分もありそうでもないところもある。
HSPはあくまでその人にとっての『1つのトピック』と考えています。HSPにとらわれ過ぎて私が精神的にキツくなるのもあったので、HSPに全て自分を当てはまるのではなく、あくまで自分の一部分だと思います。
親でHSC(HSP)と不登校をセットで語る人も多いですが、必ずしも『HSC=不登校』になるわけでもない。人はHSPだけでなくいろんな気質や要素を持っていますから、HSPも考慮しつつ様々な角度から物事を考えたいですよね。
HSPを卒論で扱う大学生へのメッセージ
まだ研究途中でHSPの定義が決まってないので難しさはあると思いますけど、私は心理的というより社会学的にHSPにアプローチしました。HSPはちょっと見方を変えれば、珍しい・面白い研究ができる分野です。でも真っ向から立ち向かうと打ちのめされるので、見方を変えたり焦点を狭めていくとやりやすいと思います。
まだ研究の例が少ないという意味で難しさはありますけど、やってて面白い部分もありますよね。
自分にしかできない研究ができるとか。
よしこさん、ご協力ありがとうございました(^^)
HSPの卒論に使える参考文献
書店に行くとHSPの本はたくさん売っていますがHSPを正しく解説していたり、卒論の参考に使えるレベルの本はほんの一握りです。以下で卒論にも使える信頼できるHSP本を紹介しています。
2022年11月14日にHSPの研究者の飯村周平さんが著者の本『HSPの心理学: 科学的根拠から理解する「繊細さ」と「生きづらさ」 』が出版されました。HSPブームや最新の研究事情を交えてHSPの解説がされています。
またビッグファイブや発達障害などHSP以外の心理学の観点からのHSP解説も他の本にはない特徴です。本当の意味でHSPの勉強になる書籍は非常に少ないですが、その数少ない書籍の1冊になります。
専門的な話が多く内容的には難しめ。
ただし心理学の観点からHSPをしっかり解説し、最新の研究地検も交えているので心理学系の学部の人は必須の本です。
HSPブームの功罪を問うも同じくHSPの研究者飯村周平さんが執筆された本です。HSPの心理学は心理学全般からHSPを深堀りしていきましたが、この本は心理学にも触れつつ2020年以降のHSPブームについて社会学やマスメディアなどの観点から考察されています。
HSPが過度に広まった背景として、マスメディアはもちろん一部の悪質な医療機関、カウンセラー、宗教などいろんな要素が絡んでいるため、HSPが広まった背景を知りたい人にオススメです。
特に社会学系の学部やメディア絡みの学部・学科でHSPの卒論を作る際には必須ともいえる本です。
関西大学で臨床心理学の研究をしている串崎真志さんが執筆した本です。飯村さんは発達心理学が専門ですが、串崎さんは臨床心理学が専門で同じ心理学でも立ち位置が少し異なります。臨床心理学に関心のある方にオススメです。
2024年2月出版と今回紹介する中では一番新しい文献です。
著者はHSP研究者が勢ぞろいで、
- 飯村周平さん
- 上野雄己さん
- 小塩真司さん
- 岐部智恵子さん
- 串崎真志さん
- 高橋亜希さん
- 平野真理さん
- 矢野康介さん
いずれもHSPの研究論文を書いた実績のある方ばかりです。発達心理学とパーソナリティ心理学、臨床心理学と幅広い心理学の観点からそれぞれの研究者の専門の観点からHSPを解説しています。
今ある最新のHSPの知見もそろっているため、手早く日本のHSPの研究者を知るには必須の本です。
このほか、市販のHSP本も含めて別記事で解説しています。
卒論の参考文献として、HSPの本の選定について知りたい方は以下の記事もご参照ください。
まとめ+編集後記
- 人文学部所属でHSPを卒論のテーマにした
- 卒論はインタビューを通じてHSPを知る前と知った後の変化やHSPに対する認識などを聞いた
- ゼミの教授は元々HSPを知らなかったけど、対話を重ねることで理解を得られた
- 学術的なHSPの情報が少ないので情報集めは大変だった
- HSPを掘り下げること(自分を掘り下げる)で精神的に辛く感じたことはあった
- HSPの学術的な情報はJapan Sensitivity Researchが万能
- HSPがその人の全てではなく、あくまで一部分
- HSPは見方や角度を変えることで、珍しい・面白い研究もできる
一番印象に残ったのはHSPは心理学の分野なので、HSPの研究も心理系の学部の人が行うイメージでしたが、今回のよしこさんのように人文学部など心理学以外の学部にいてもHSPの卒論は作れるということ。もちろん学部による研究内容のズレはありますが、いろんな角度からHSPが分かるのも良いことだと思います。HSPの研究も発展途上ですが、まずは卒論あたりからHSPを研究する人が増えてほしいです。
よしこさん、インタビューにご協力いただきありがとうございました(^^)
実は今回のよしこさんに加えて去年もTwitter上で別の大学生がHSPの卒論をやっててその相談にも乗っていました。HSPを卒論でやりたい大学生の方、僕で良ければ力になりますよ。HSP勉強会も開催しています。
HSPの卒論の相談も受付中
今回のよしこさんのようなHSPの卒論のご相談も受け付けています。
特に2020年以降は、毎年SNS経由でHSPの卒論を作りたいという大学生の相談やアドバイスをした実績もあります。僕のTwitterやFacebook、お問い合わせフォームからご連絡をいただければ可能な限り相談に乗ります。ぜひお気軽にご連絡ください(^^)
HSP交流会・勉強会の参加時に、卒論の相談や質問もOKです。