著者:長池涼太:HSPの学び舎運営・HSP研究/エビデンスを発信するブロガー
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SNSでHSPに関する発信を見ていく中で以下のようなことを言ってる人を見たことが一度はあるかもしれません。
「HSPの人はカフェインが苦手」
おそらく数あるHSPのあるあるの中でも一番見たことがある人が多いのではないでしょうか?確かにアーロン博士のチェックリストににも「カフェインが苦手」という項目があるためそう思う人も多いかもしれません。
ただ、実際のところはHSPとカフェインの関係性に関する研究はなかったり、実は最近作られたHSPのチェックリストだとカフェインの項目が外されているなんてこともあります。実は世間一般で言われてるほどHSPとカフェインの関係性はそこまで密接ではないです。
HSPはカフェインが苦手と言われている
SNSにおいて「HSPあるある」と称して、いろんなHSPならではのことが取り上げられています。数年見てきて特に多いものの一つが「HSPの人はカフェインが苦手」というもの。
調べるとアーロン博士が作ったチェックリストにはカフェインの項目がありました。
I am particularly sensitive to the effects of caffeine.
(和訳:私は特にカフェインの影響に敏感です。)
Are You Highly Sensitive?
これを見て、「HSPの人はカフェインが苦手」と思っている人は多いようです。
以下の記事でHSPあるあるについて考察しました。
最近のHSP尺度(チェックリスト)ではカフェインの項目が削除されている
先述のアーロン博士のチェックリストは1996年に作られたもので、実に30年近く前のものです。そこから今に至るまでアーロン博士以外にも様々なHSPの研究者が出てきて、様々な角度からHSPの研究が進んでいます。さらに2010年代に入ると日本国内でもHSPを研究する人も出てきて、日本人のHSPの研究者がHSPに関する研究論文を出す例も出てきています。
論文上ではHSPを「環境感受性の高い人」などと表記することも多いです。
そんな中で2016年に中京大学の高橋亜希さんが「Highly Sensitive Person Scale日本版(HSPS-J19)の作成」というHSP尺度(チェックリスト)作成に関する研究論文を出しました。その論文ではアーロン博士のチェックリストを日本人向けに改良したHSP尺度も作られていますが、実はカフェインの項目は削除されています。元々アーロン博士のチェックリストは27個の質問項目がありましたが、高橋さんの論文では19個に項目が減っています。
本調査結果ではAron & Aron (1997)の主張する一次元性は認められず,因子負荷量の低い項目が含まれていた。本研究で削除した項目はAron & Aron(1997)が行った6回目の調査(N=172)において8項目中4項目の因子負荷量が.40未満であった。また,5項目はこの6回目の調査の際に質問紙の表面的望ましさのバランスや,信頼性を高めるために追加または残された項目である。したがって,本研究では因子負荷量が.30以下の8項目を削除し,19項目をHSPS日本版(HSPS-J19)とした。
Highly Sensitive Person Scale日本版(HSPS-J19)の作成
なお因子負荷量については以下の通りです。
因子分析において、得られた共通因子が分析に用いた変数(観測変数)に与える影響の強さを表す値で、観測変数と因子得点との相関係数に相当する。
-1以上1以下の値をとり、因子負荷量の絶対値が大きいほど、その共通因子と観測変数の間に(正または負の)強い相関があることを示し、観測変数をよく説明する因子であると言える。
因子負荷量factor loading 統計用語集
要は高橋さんの論文では因子負荷量(≒相関係数)が小さい項目を削除し、その中の一つにカフェインの項目があったとのことです。必ずしもHSPだからカフェインが苦手とは言えないみたいな形になったようです。
高橋さんの論文でカフェイン以外の削除された項目は以下の通りです。いずれも数値上はHSPとの関連性が疑問視されたようです。
- 周囲の環境の微妙な変化に気づきますか?
- 自分で休まなければならないほどに神経がすりへることがありますか?
- 物理的な環境で不快な感じがする人がいる場合,どうすれば快適にできるかわかりますか?
(例えば,明るさや席を変える) - 間違えたり物を忘れたりしないようにいつも気をつけていますか?
- 暴力的な映画やテレビ番組は見ないようにしていますか?
- 空腹になると,集中力や気分を損なうといった強い反応が起こりますか?
- 動揺するような状況を避けることを優先して普段生活していますか?
そもそもHSPの人がカフェインが苦手というエビデンスがない
また同じくHSPの研究者の飯村周平さんも「環境感受性(HSP)とカフェインの関係を調べた研究はない」としています。
カフェインから影響は受けやすいかもしれませんが、「影響を受けやすい=苦手」というわけではありません。場合によっては、カフェインから良い影響を受けることも考えられます。しかし、現在のところ、環境感受性とカフェインの関係を直接的に調べた研究はありません。
Japan Sensitivity Research
この点はGoogle Scholarなどの論文検索サイトを使えばわかりますが、今のところHSPとカフェインの関係性に注目した研究などはありません。少なくとも「HSPの人はHSPでない人よりカフェインが苦手な人が多い」みたいな研究結果はなどは今のところないということです。
まぁ「アーロン博士がHSPはカフェイン苦手って言ってるじゃん!」と言われればそれまでですが…。ただ、研究というのは常に進歩していくものでいかにアーロン博士だから全部正しいとしてしまうのもどうかと思います。現に世界規模で見れば今はアーロン博士以外にもたくさんの研究者が論文を出しています。日本国内にも数名程度ですが、HSPの研究者(専門家)はいます。
HSPだけどカフェインは気にならない
僕自身もアーロン博士のチェックリストは27個中21個に該当、高橋さんのHSP尺度も19個中16個が該当するのでいわゆるHSPには完全に該当するタイプだと思います。ただ僕はカフェインに関しては特に気になったことはなく、コーヒーも普通に飲むことができます。
ちなみに僕がコーヒーを飲むときは基本的にブラックです。砂糖やミルクなどを入れることはほとんどないです。
コーヒーを飲んだりカフェインを摂取したから眠れなくなったり何か体調に変化が起こるなども全くありません。ただし、カフェインは体質であったり過剰摂取によって悪影響も出ることがあるので注意は必要です。
カフェインは、神経を鎮静させる作用を持つアデノシンという物質と化学構造が似ており、ヒトの体内においてアデノシンが作用を発揮するために結合しなければならない場所(受容体)に結合します。その結果、アデノシンが受容体に結合できなくなることで、その働きが阻害され、神経を興奮させます。
カフェインを過剰に摂取し、中枢神経系が過剰に刺激されると、めまい、心拍数の増加、興奮、不安、震え、不眠が起こります。消化器管の刺激により下痢や吐き気、嘔吐することもあります。
長期的な作用としては、人によってはカフェインの摂取によって高血圧リスクが高くなる可能性があること、妊婦が高濃度のカフェインを摂取した場合に、胎児の発育を阻害(低体重)する可能性が報告されています。
カフェインの過剰摂取について 農林水産省
僕みたくコーヒーなどを問題なく飲める人でもカフェインの過剰摂取で症状が出ることがありますし、そもそも体質的にカフェインがダメな人もいます。そして僕もこれまでHSP交流会、HSP勉強会を通じてたくさんHSPの人に会ってきましたが、特にコーヒーやカフェイン苦手な人が多い印象はなかったです。
医学的な観点でも考えると、「HSP=カフェインが苦手」はちょっと無理があります。
お酒(アルコール)に近い感じでカフェインがそもそも合わない人もいるので、この辺は本当に個人によります。
まとめ
- HSPあるあるとして「HSPの人はカフェインが苦手」がよく挙がるが実際そんなことはない
- 実は最近の論文ではチェックリストからカフェインの項目を削除するケースもある
- HSPとカフェインの関係性に関する研究は今のところない
- HSPであろうとなかろうとカフェインが苦手な人は一定数いる
- HSP関係なくカフェインの過剰摂取は悪影響が出ることもあるので注意
SNSで見かける「HSPあるある」は意外とあてにならないことをご理解いただければと思います。カフェインの是非は結局HSPかどうかではなく、個人の体質によるところが大きいです。
「HSPあるある」や「HSPの人は○○」みたいな話もすぐに真に受けず、いったん冷静に受け止めてほしいと思います。