著者:長池涼太:HSPの学び舎運営・HSP研究/エビデンスを発信するブロガー
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みなさんは高校に進学したときってどのような心境でしたか?多くの人は高校受験を乗り越えて高校に入学したと思いますが、高校に入ると多くのことが中学とは勝手が違って戸惑った部分も多かったかもしれません。
そんな中、最近は高校に入ってつまずくことを特に高1で多いことから「高1クライシス」という名前もついているくらいです。今回はそんな高1クライシスについて自分の経験も交えながら解説しました。
高1クライシスとは?小学校・中学校にも同様のケースはある?
高校進学にともなう環境変化などによって、不安や抑うつの増加といった心理適応上の問題が生じる生徒がいます。この問題は「高1クライシス」と呼ばれることがあり、本邦の教育政策は中学校卒業から高校入学のギャップを少なくするよう中高一貫校の設置を推進しています。しかし、新しい学校環境への適応が求められる高校移行期は、生徒の発達にとって本当にネガティブな時期なのでしょうか?
中央大学文学研究科博士後期課程・飯村周平の共同研究の成果「「高1クライシス」のもう一つの側面―高校移行期に生じる生徒のポジティブな発達的変化―」が研究雑誌「Journal of Youth and Adolescence」に掲載されます
高1クライシスは主に高校進学に伴う環境などの変化により精神面での不調などが生じることを指しています。たとえば公立中学校から高校進学の際はそれまでの同級生とは別の高校に通うなど環境が大きく変わることが多いです。
そのため高校進学における環境の変化をリスクととらえる考え方もあり、最近は中高一貫校などのように中学から高校にかけてを同じ学校(環境)で学ぶような学校や動きも増えています。
高校に入学後、なかなか新しい環境になじむことができず、意欲を失ってしまう高1クライシスという現象があります。その原因として、生活面や学習面の大きな変化へのとまどいがあげられます。聖ドミニコ学院中学校には、同じ環境や同じ教育方針のもとで学ぶことによって、高1クライシスを回避しやすくなるというメリットがあります。その理由は、環境の変化がないことに加え、必要に応じて、同じ敷地内にいる教員同士が生徒の情報共有をスムーズに行い、対応することができるからです。
聖ドミニコ学院中学校
一例で引用した上記の聖ドミニコ学院中学校も中高一貫教育の形をとっており、中学校に入学すれば高校はそのまま同じ系列の高校に進学することになります。同じ系列であれば環境の変化も最小限で抑えられるため、高1クライシスのリスクも最小限に抑えられると考えられています。
高1クライシスは高校1年生に関する話ですが、同じようなもので中学校1年生に関する「中1ギャップ(中1プロブレム)」、小学校1年生に関する「小1プロブレム」という問題もあります。
環境の変化や心身の不調によって起こる点など基本的な考え方などはいずれも同じです。
「小 1 プロブレム」とは、1年生の学級において、入学後の落ち着かない状態がいつまでも解消されず、教師の話を聞かない、指示通りに行動しない、勝手に授業中に教室の中を立ち歩いたり教室から出て行ったりするなど、授業規律が成立しない状態へと拡大し、こうした状態が数ヵ月にわたって継続する状態をいう。
平成 28 年度~平成 30 年度 幼児教育の推進体制構築事業 成果報告 名張市教育委員会
中1ギャップも意味合いはさほど変わらないですが、文科省の「中1ギャップの真実」によると「定義があいまいなので、中1ギャップを安易に使うべきではない!」とする声もあり、扱いは慎重にした方がいい場合もあります。
高1クライシスの原因と発生する問題点
高1クライシスに陥った場合に起こりうる問題点(リスク)は以下のようなものが考えられます。
学習面。成績の維持が大変
中学校までは勉強が得意な人から苦手な人まで様々ですが、高校は基本的に自分と学力が近い人が集まることが多いです。まして進学校ともなれば勉強が得意な人がほとんどですからね。
つまり中学校と同じ感覚で勉強をしているとそれだけ成績(順位)も下がりやすくなるため、中学校以上にしっかり勉強する必要があります。
理科は「物理」「生物」「化学」「地学」などのように科目数が増えるためその点でも大変ですね。
進学校など学校によっては成績にシビアな学校もあるため、そのような学校だといづらさを感じることがあるかもしれません。
生活面。生活リズムや友人関係の変化
たとえば中学校は近所だったけど、高校が遠くなるなどしてその分早起きしなければいけないなど生活リズムが大幅に変わる可能性もあります。
公立の小中学校なら家と学校が近所や同じ地区なことが多いですが、高校になると市町村をまたいでの通学をする人も多いです。
また友人関係も高校進学にあたって一新されることも多く、高校の友人と上手くやれるかも高校生活を楽しむ上では重要になってきます。
これらに順応できれば問題ないですが、何らかの理由で順応できない人や順応に時間がかかる人もいます。
その他。長期にわたる欠席や不登校、退学
上記のつまずきが長期化したり深刻化すると欠席が長引き不登校につながる場合もあります。高校の場合は義務教育ではないため最終的に退学というケースもあり得ます。現状、高校を辞めるというのはハードルが高く令和2年度の調査で1%くらいとされています。
高等学校における中途退学者数は34,965人(前年度42,882人)であり,中途退学率は1.1%(前年度1.3%)。
令和2年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要
社会に出てからも会社を辞める(退職する)ケースはありますが、転職が一般的になってきている昨今では退職のハードルは徐々に下がってきています。一方で高校の中途退学は1%と割合が非常に少なく、万が一高校が合わなかったとしても他の高校に転向するなどと言ったことはいまだにハードルが高いです。
近年は不登校の数が増え続けており対策が必要とされていますが、不登校の受け皿の一つにN高・S高といった通信制の高校も出てきています。通常の高校と同じく通学するコースもありますが、オンライン主体で通学をほとんどしないようなコースもあるようです。特にオンラインであれば自宅で授業を受けることも可能なため、高1クライシスでよくある学校になじめるかの問題も最小に抑えられるかもしれません。
ただしカリキュラムが一般の高校に比べて自由が利く利点がある一方で、大学並みに主体性が求められるため本人がしっかり自己管理ができることは必須のようです。
またN高・S高でオンラインメインになれてしまうと大学進学や就職などにあたって対面でのやり取りが増えたときに適応できるかは未知数な部分も多いです。
高校進学で環境が大きく変わった体験談
学校 | 中学校(公立) | 高校(私立) |
---|---|---|
学習面 | 勉強が得意な人から苦手な人まで満遍なくおり、その中では上位層に入ることもあった。大きな成績の下落はなかった。 | 同じクラス・コース内は特待生や勉強が得意な人が多く中学よりハイレベル。油断するとすぐに順位を落とした。 |
生活面 | 少し荒れ気味の学年ではあった。家から徒歩数分の通学。 | 家からバスもしくは自転車で20~30分。中学と違いいわゆるヤンキー的な人はいなかった。私立だからか校則は少し厳しめ。 |
友人関係 | 仲の悪い人も多少いてトラブることもあったが、仲のいい友人とは良好な関係を築けた。良くも悪くもいろんな人がいた。メンバーが小学校とほぼ変わらないので小中学校はセットみたいな感じだった | 同じ中学校からの進学者が少なく友人関係はほぼリセット。最初はなかなか友達ができなかったが1人仲良くなってからはスムーズに友達が増えた。 |
僕の場合は高1クライシスで言われるような精神疾患や不登校など大きなトラブルはありませんでした。ただ中学とはガラッと環境が変わった点でいろんな面での変化は実感しました。
主に2004年の僕の高校入学時の話ですが似たような状況の方は今でもある程度参考になると思います。
学習面。中学までは偏差値60ちょっとはあったが1学期中盤から下降気味
中学校の時は塾に通っておりかつ割とハイレベルなのもあり、だいたい全体で中の上以上の成績(偏差値60台前半くらい)はありました。そこから頑張って私立高校の特待生として合格、入学しましたが、いざ入ってみるとクラスメイトには僕と同じ特待生がゴロゴロいました。
そのため入学直後の中学の復習テストまでは良い感じに点数・順位が取れていましたが高校の範囲が入ってくる5月の中間テストからは一気に成績を落としてしまいました。
中学まで大きく成績を落としたり成績が学年の平均を割るという経験がほとんどなかっただけに当時としてはショッキングな出来事でした。ただ幸いなことに先生から厳しいながらフォローはしていただいたり、クラスメイトもいじめてくるような人はいなかったためそこで中和されたかなという感じでした。
ただ成績を落とすとクラスが変わるのも嫌だったので、それ以降僕なりに必死に勉強し食らいつきました。
生活面。自転車・バス通学になり通学時間がぐっと増えた
中学校は当時住んでた家から徒歩数分でした。そこから高校は自転車もしくはバスで2,30分かかるところだったので、中学と比べるとぐっと遠くなり通学にもそれなりに時間を割くことになりました。
ただ、中学校が8時10分登校に対し、高校は8時40分までに登校だったので、実際のところ起床時間などは高校に入っても大きく変わりませんでした。
とはいえ高校が中学まであまり行ったことないエリアだったため、高校入ってからしばらくは同じ水戸市内とはいえ「遠いなぁ…」と思いながら通学してました。
友人関係。中学からほぼリセットされたが徐々に友達はできた
高校は水戸市内の私立とはいえ同じ中学校の人があまり行かない高校だったため友人関係はほぼリセットされました。初めて携帯電話を買ったのも中学を卒業した後で当時連絡先を交換した中学の同級生はごく一部でしたからね。
中学の同級生に関しては卒業後に会えた若干名の親しい人だけ連絡先を交換しただけでした。
そんなわけで高1のクラスも同じ中学校の人が誰もない状態で全員がはじめましての状態でした。僕は中3の1月の段階で進学先を決めていたため単願切り替えなどで早めに入学が決定した人を対象に中3の2月に開催された勉強会にも出ていました。一応そこでのちの同級生になるであろう人たちとは対面していましたが人見知りがかなり激しかったため一言もしゃべられないくらいでした。
そのため高1になって入学式の翌日に通常授業になっても友達がいない状態で迎え、昼食の時間もまわりが数人のグループを作っている中で僕が唯一一人ポツンとしている状態でした。ただ、それを見かねてクラスメイトが声をかけてくれてそのグループに入れてくれたおかげでその人とも仲良くなれてそれ以降は徐々に友達ができました。
ちなみに僕の高校は当時は特進コースと進学コースの大きく2コース編成で、あとは成績順によってクラスが編成されていました。コース変更もせず成績も一定以上は保ったので僕としてはクラスは変わらず高1のクラスメイトの半分以上は3年間ずっと同じクラスでした。
高1クライシスは必ずしも悪いことではない
「クライシス」というワードは一般的には「危機」という意味で使われることが多いです。そのため高1クライシスというとネガティブなイメージを持つ方も多いかもしれません。
ただ、「高校進学でつまずいたら」という本によるとクライシスという言葉は必ずしもネガティブな意味というわけでもないみたいです。
英語crisisの語源をたどると、良くなるか悪くなるかの「峠」あるいは「分岐点」を表すようなニュアンスもあるようです。どちらかというと私はこの意味で、高校進学は「クライシス」になりうる出来事だと説明しました。
つまり、高校に進学することは、良い方向にも悪い方向にも心が変化するきっかけになる出来事だということです。それ自体は良いものでも悪いものでもありません。思いのほか、ニュートラルな意味に感じたでしょうか?
実際、高校進学をきっかけに、大きくつまずいてしまう人もいますし、その逆で、中学校の時よりのびのびと過ごせるようになる人もいます。
高校進学でつまずいたら「高1クライシス」をのりこえる
僕も中学校よりは高校のほうがのびのび楽しくできましたし、一方で高校で悪い状況に陥った友人などもいました。
個人的な体感ですが中学校は特に公立だと画一的になりやすく学校ごとの差があまりないような気はしますが、高校は公立を含めてもかなり個性が出たり校風などに違いも出やすく私立は違いがより顕著なので、こういった変化の大きさはまさに「分岐点」になりやすいです。
高校での出来事は大学などの進学先やそのあとの就職先など後のことに影響を少なからず及ぼすため、大人になってから考えると高校の影響力は意外と多いと考えられます。
HSPと高1クライシス
現状HSPと高1クライシスを組み合わせた研究はなく、「HSPだから高1クライシスになりやすい(もしくはなりにくい)」みたいなことは言えません。ただしHSPは環境感受性が高い人、つまり「良くも悪くも環境に影響されやすい人」とされているため学校生活において学校の環境や雰囲気に左右されやすい側面はあるかもしれません。
Rather, a strong vantage sensitivity model was revealed, suggesting that highly susceptible adolescents disproportionately benefitted from a positive school transition over their counterparts.
Highly sensitive adolescent benefits in positive school transitions: Evidence for vantage sensitivity in Japanese high-schoolers
(和訳:強力な視点感受性モデルが明らかになり、非常に感受性の高い思春期の若者が、対照群に比べて、学校への移行で大きな恩恵を受けることが示唆されました。)
HSP(感受性が高い)から学校が苦手とかははなく、感受性が高いからこそ環境が良い方向に変わることでより恩恵を受けやすいという研究結果もあります。感受性の高い人は周りの環境に気を配ったり、自分に合う環境や合わない環境を把握しておくことで上手く立ち回れるかもしれません。
ちなみに今回記事を書くにあたって参考にした本「高校進学でつまずいたら「高1クライシス」をのりこえる」の著者の飯村周平さんは日本で数少ないHSPの専門家(研究者)でもあります。
HSPもSNSでは「生きづらい」とセットで語れることが多いですが、HSPも本来はフラットな概念です。
まとめ
- 高校進学にともなう環境変化などによって、不安や抑うつの増加といった心理適応上の問題が生じる生徒がおり高1クライシスと呼ばれる
- 高1クライシスに陥ると学習面や生活面で問題が生じ、メンタルに支障が出て不登校などにつながる場合もある
- クライシスは「分岐点」という意味合いもあり必ずしも悪いことではない
- HSPと高1クライシスをかけ合わせた研究は今のところない
高1クライシスというとクライシス(危機)というワードからネガティブなイメージを持ったり、高校に対する悪いイメージを連想する人もいるかもしれませんが、見方を変えれば高校は良くも悪くも人生においてそれなりに影響力のある期間とも言えます。
実際僕も今のフリーランスの活動においては友人や先生など高校の関係者にもお力添えをいただくこともあり、かれこれ20年くらいの付き合いがあります。
高校進学は不安がつきものですが同時に今後の人生の可能性を広げる場にもなります。不安ともうまく付き合いながら高校生活を楽しみましょう。
教育とHSPを学んでみませんか?
高1クライシスのポイントになるのが「環境の変化」。
実はHSP(Highly Sensitive Person)も「良くも悪くも環境に影響されやすい人」とされています。加えてHSP研究は教育と絡めたものが多く、HSPを知ることは教育を知ることにもつながります。
ただ最近のHSPはネット上に情報が溢れすぎて、正しい情報を見つけるのが難しくなっているのが現状です。
涼しく生きるでは毎月HSP勉強会を開催し、主に研究論文やそれに準ずるHSP情報を使い参加者に正しいHSPを認識させてもらうようにしています。
- HSPって最近よく聞くけど何?
- HSP(だと思われる)子に対してどのようなアプローチをすればいいのか?
そうお考えの方はぜひHSP勉強に参加して質の高いHSPの知識を身につけましょう。